< 本の紹介 >

自然観察にかかわるおすすめの書籍を紹介します。


虫や鳥が見ている世界
-紫外線写真が明かす生存戦略-


浅間茂/著
中公新書、2019年4月22日発行
新書判、192ページ、定価:1,000円+税
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虫や鳥はどんな世界を
見ているのだろうか?

虫や鳥など、ほ乳類以外の動物の多くは紫外線領域の色を見ることができるという。
それはどんな風に見える世界なのだろうか?
我々には見えない色で、彼らはどんな情報をやり取りしているのだろうか?

見えない世界、まだ誰も知らない世界を見てみたいという好奇心に駆られた著者は、紫外線写真が撮れるように自分で改造したカメラで手当たり次第に動植物の写真を撮り続けてきた。
動植物の紫外線写真をここまで網羅的に収めた本はこれまでになく、たくさんの紫外線写真の中には世界で初めてというものも少なくない。


紫外線写真は、動物たちが見ているそのままではないにしろ、彼らが見ている世界を想像させてくれる。見えている状況から見えない状況を推測するよりも、見えない状況から見える状況を推測する方がはるかに難しい。
我々には見えない世界への扉を少し開いて覗き見をさせてくれるのが本書である。

書名からもわかる通り、著者の関心は紫外色の世界が動物たちにどう見えているのかというところだけではなく、動植物が生活の中で紫外色をどのように利用しているのかというところにも向けられている。こうした分野の研究はまだ十分にはなされておらず、本書には新知見といえる内容も少なからず含まれている。
気負いが筆を滑らせすぎてしまっていると感じさせる箇所もあるが、今後の実証が待たれる研究テーマのヒントがたくさん見つかるような示唆に富む本であるともいえる。

<<追加情報1>>
本書と合わせて読むことお薦めしたい2冊の本

● モンシロチョウの結婚指輪
小原嘉明著 現代教養文庫(社会思想社) 1977年2月発行

小原嘉明氏はモンシロチョウの雌雄が彼らの視覚では全く違った色に見えていることを初めて明らかにし、紫外色が雄の配偶行動を解発(release)する鍵刺激であることを実験により証明した。
小原氏には本書を通して科学の楽しさを一般の人たちや子供たちにも伝えたいという気持ちもあったのだろう。試行錯誤を繰り返しながら仮説を検証していく研究過程が平易な言葉で記されていて、読み物として面白いばかりでなく、科学の方法を学べる格好のテキストともなっている。


● 生物から見た世界
ユクスキュル著(岩波文庫) 2005年6月発行

生物はそれぞれで知覚し得る世界が違い、それぞれが独自の感覚世界の中で生きており、そこでは時間の進み方や空間の広がりさえも違っている。自分が五感で知覚している世界はヒトが知覚し得る範囲の世界でしかない。世界は一つではない。自分が見聞きしているのとは異なる世界が無数にある。学生時代にこの本を読んで、生物の見方や世界観が変わった。

※ 岩波書店の紹介 ⇒

(過去に思索社からも出版されている)


<<追加情報2>>
「虫や鳥が見ている世界」出版記念講演のお知らせ

2019年12月の自然観察大学室内講習会では浅間氏による出版記念講演が予定されています。
本には書ききれなかったことやその後の新たな発見の報告もあることでしょう。
本書を事前に一読されてから出席されると、興味も増し、理解も深まることと思います。
(注:2019年12月に終了しました。)

2019年8月 自然観察大学講師 中安均

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