< 本の紹介 >

自然観察にかかわるおすすめの書籍を紹介します。


子どもと一緒に見つける
身近な生きものさんぽ図鑑


NPO法人自然観察大学/監修
永岡書店 2021年4月10日発行
新書判、256ページ 定価:1,300円+税


これはまさに“コンビニエンス図鑑”である

私たちは2019年発行の「草花さんぽ図鑑」に監修という形で関わった。幸いこれはいまも版を重ねているが、そのさい身近な動物でもこのような本ができるといいなと話が出た。そこでは、動物は分野が多岐にわたり一冊にまとめるのはなかなか難しいだろうという声が多かった。
それが2年後(2021年)の春に鮮やかに誕生したのは驚きだった。監修は同じく自然観察大学の講師陣である。「身近な生きもの」とは、鳥類、昆虫類、ほ乳類、は虫類、両生類、クモ類、地面や水辺の小動物などで、200種を選び生息環境を考慮しつつ配列され、的確な写真と解説、それにコラムが配置されている。そのスタイルは「草花さんぽ」と同様であるが、さらに洗練された感がある。各所に配されたイラストも「草花」と同じ作家で、親しみやすくかわいい。



コラムには興味ある話題が詰まっており、これだけを読んでも「生きもの博士」になれそうである。一例をあげると、「住宅地の昆虫」の項にナミニクバエがある。これは一般にはイメージの悪いハエとされているが、生態系の一環としては役に立つという。珍しい卵胎生であるという解説があるが、さらにコラムの見出しには「ハエが前脚をこするのはなぜ?」とある。その中身は本書を読んでいただきたいが、私はすぐに「やれ打つな はえが手をすり 足をする」という一茶の句を連想した。

他にもこの本ならではの話題が新書版255ページのなかに詰まっていて、まさにコンビニエンス図鑑であるが、そこの商品は精選されしかも効率よく配置されている。もちろんこの棚には限りがある。あの種が出ていない、これも知りたいのになどいう不満もあろう。それは次の段階の図鑑類を探してほしい。この本には「子どもと一緒に見つける生きもの」観察の楽しさが十分にある。

2021年4月 自然観察大学名誉学長 岩瀬徹


たしかに、
散歩がワクワク楽しくなってくる図鑑だ

本書は好評を得ている「子どもと一緒に見つける 草花さんぽ図鑑」(2019年発行)の姉妹編で、同じく自然観察大学の講師陣(今回は唐沢孝一・浅間茂・鈴木信夫の三氏)が監修に携わっている。

本書で紹介されている生きものは鳥50種、昆虫100種、クモやカタツムリなどの小動物17種、ほ乳類4種、は虫類10種、両生類8種、水辺の動物11種と多岐にわたる。
各々の種のページにはメインの写真があり、特徴や名前の由来などを解説した説明本文のほかに「コラム」または「観察ポイント」のコーナーがある。「コラム」では補足的な情報や知っているとおもしろい雑学的な知識、「観察ポイント」では実際に観察する際に注目するポイントや知っておいた方がいい情報が紹介されている。

この本が主な読者として想定しているのは、生きもののことを詳しくは知らない親子である。そんな親子が本書を通して生きもの観察の楽しさに目覚め、観察を続けていく入口となることを目指している。
そうした目標は十分に達成されており、自然観察の入門書として「草花さんぽ図鑑」とともに身内や知り合いの親子にプレゼントしたくなる一冊となっていると思う。
一方で、コンパクトな本になるべく多くの種を載せようとすれば、各々の種の説明は簡略化せざるを得ず、自然観察を長年続けてきた人にとっては掲載種や説明に物足りなさを感じるところがあるのは致し方ない。ただ、そうした人たちに対しても、初心者に生きもの観察の楽しさをわかりやすく伝えるにはどうしたらよいかを学ぶ絶好の教科書としてはお薦めの本である。

「草花さんぽ図鑑」と同様、塩化ビニルのブックカバーがかけられているのは、この本を持って野外に出かけ、生きものを前にしてその場で使ってほしいという意図からだろう。大賛成である。
ならばということで、早速、この本を持って、自宅近くのいつもの散歩コースでの生きもの観察に出かけた。いつもなら1時間ほどで戻るのだが、今回は倍ほどの時間をかけ、自分にとっては見慣れた生きものでも、知らない人の気持ち、子供の反応を予想しながら見直してみた。季節は春本番の4月中旬。千葉県北西部、環境は住宅地・市街地と里山(谷津田・斜面林)、距離の割合としては1:2ほどのコースである。



生きものの存在に気付いた時点で本書を開く。名前はわからないという設定なので、目次や索引からの検索はせずに、ページをめくって探し、本文を読んでみた。
出会った生きもののうち、誰でも存在に気づけそうなものだけに限れば、住宅地・市街地では12種中の3種、里山では28種中の7種が載っていなかった。逆に言えば、4分の3は掲載されていた。

耕起を終え、水を張り始めた田んぼではカエルたちが「ケロケロコロコロ」とうるさいくらいの大合唱。姿は見つからない。鳴き声の主は何? と知りたくなるのが自然な心の動き。カエルや鳥、虫などの鳴き声から名前を調べられる工夫、あるいはスマホを利用して調べられる検索サイトやアプリの紹介があるとよい。ちなみに騒がしく鳴いていたカエルの正体はシュレーゲルアオガエル(本書には掲載なし)。
田んぼを歩き回りながら餌を探している白黒の小鳥は何だろう。尾が長めのスマートな鳥だ。「公園の池、川や湿地など水辺の鳥」のページをめくり、ハクセキレイらしいとわかる。
この本の読者の多くは自然観察初心者で、観察用具を持って出かけるほどのこだわりはおそらくないだろう。本書がきっかけになって、双眼鏡や虫眼鏡持参の散歩をしてくれるようになってくれれば、しめしめなのだが…。

各々の生きものの紹介ページには、その特徴がわかりやすいメイン写真があるが、肉眼ではこんなにはっきりとは見えない場合がほとんどである。遠くからでもわかる識別ポイントをもっと積極的に示した方がよい。
ハクセキレイのページにはセキレイの仲間の見分け方としてキセキレイとセグロセキレイの小さな写真もある。これはとてもよいのだが、双眼鏡なしで遠くにいるハクとセグロを区別することは初心者には難しそう。鳴き声の違いも書かれていれば、どちらだろうかと迷っていたハクとセグロの両方ともがいたことがすぐにわかったはずだ。

今回の観察散歩で自分にとって最も嬉しかったのはスジグロシロチョウについての新情報。
本文を読むと「雄にレモンのような匂いがある」という。これは知らなかった。
是非ともその匂いを嗅いでみたい。
となるとまずは雄雌の見分けが必要になるが、そのことについての記載はない。
クレソンの葉に止まっていた個体の翅の裏面は黄色味を帯びていて雌だとは思ったが、取り合えず捕まえて匂いを嗅いでみた。
残念ながら、これといった匂いはしない。やっぱり雌だったか。
今度は必ず雄を捕まえて匂いを嗅がねば。そんなことを考えながら歩いていると、確かに「散歩がワクワク楽しくなってくる」(本書のキャッチコピー)。

2021年4月 自然観察大学講師 中安均

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