< 本の紹介 >

自然観察にかかわるおすすめの書籍を紹介します。


中公新書
都会の鳥の生態学

カラス、ツバメ、スズメ、水鳥、猛禽の栄枯盛衰


唐沢孝一/著
中央公論新社、2023年6月21日発行
新書判、256ページ(口絵カラー16ページ)、定価:1,155円(税込)
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鳥音痴が読んだ「都会の鳥の生態学」

ちょうど10年前の5月、南房海岸のイワタイゲキを観るべく外房線に乗った。勝浦駅でしばらく停車した。何気なく外を眺めていると、見慣れない鳥がホームや駅舎のあたりを飛び回っていた。赤とブルーの色彩が目に付いた。おやっと思って小形カメラを取り出し遠いながらも撮影した。帰って図鑑で調べてみるとそれはイソヒヨドリであることを確認した。鳥音痴が初めて自分で名前を確かめた満足感があった。しかしイソヒヨドリがこんなところにいるだろうか。それが疑問として残った。

今回「都会の鳥の生態学」を開いて、思わずあっと声をあげた。この本はカラーの口絵が16ページあるが、その1ページ目にイソヒヨドリが載っているではないか。しかも東京銀座のビル街にくらす姿である。そこで本文の方のページを繰る。
イソヒヨドリは名前のようにもともと磯に生息していたが、2000年ごろから内陸部に見られるようになり、ダムサイトとか街なかのビルの間などにくらすようになったという。銀座でイソヒヨドリのさえずりを聞けるようになった。まさに鳥の都会化である。

この本の筆者である唐沢さんなどのグループが、都市鳥と名付けてくらしを追うようになってからもう半世紀近くになるという。多くのことが明らかにされた。それらは各種の雑誌や刊行物などに発表されてきたが、本書は現時点での集大成ともいえようか。しかも新型コロナ蔓延の影響を受けながらの苦労の刊行となった。
本書はツバメ、スズメ、水鳥、カラス、猛禽類の5本を柱にし、鳥と人との関わりを豊富な観察例をもとに追っている。紹介したい事例は数多くあってとても紙面が足りないが、それは本書を読んでいただきたい。

ツバメの一例だけ挙げよう。ツバメは子育てのころは親しまれているが、くらし面ではまだ不明なことがある。ねぐらはどこにあるだろう、どんな眠りをしているだろう。素人ながら私もそんな疑問をもっていた。唐沢さんは知人の紹介でその現場を確かめることができた。2015年から4年間多摩川中流部の河川敷のヨシ原で、大規模なツバメの集団がねぐらをもっているこを目撃した。そのかず数千羽、しかも後から続々と加わってくるのは壮観で、読む方も思わず「やったね」という気持ちになる。

唐沢さんは豊富な鳥の情報ネットを持つが、集まった情報を基に自らの目で確かめようとする。そして鳥の目になって自然のしくみを考えようとする。これは鳥に限らず、広く生きものに通じる「唐沢流」の自然観察といわれる。特に都市の鳥の観察に成果を上げてきた。本書からもそれが十分に読み取れよう。

蛇足ながら、私はこれまで雑草を観察のおもなテーマにしてきた。雑草は最も人と関わりの深い植物である。僅かなすき間でもあれば耕地であろうと街なかであろうと根を下ろす。都会の鳥も人工物のすき間を見つけてはくらそうとする。それらが都市の自然であるという共通点を感じる。
鳥音痴というべき立場ながら、本書の感想を述べた。

2023年6月 自然観察大学名誉学長 岩瀬徹

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