< 本の紹介 >

自然観察にかかわるおすすめの書籍を紹介します。


野外観察ハンドブック
新訂 校庭の雑草


岩瀬徹・川名興・飯島和子/共著
全国農村教育協会、2021年4月20日発行
A5判、192ページ、定価:1,930円+税


35年経っても新鮮な、不思議な観察図鑑

「校庭の雑草」をはじめこのシリーズの著者が生物を見るときの背景にはいつも“形とくらし”があります。校庭の雑草が他の図鑑とひと味違うのは、多くの図鑑が“形”つまり形態に重きを置いているのに対して、校庭の雑草が“くらし”つまり生態を重視しているからです。
特に重要なのは「第1部 雑草の形とくらし」の存在です。この本のボリュームゾーンは「第2部 校庭の雑草280種」ですが、第1部でまず植物の生態的な特徴を類型化して解説し、さらに第2部と連携を取っています。出版から35年経ってもこの構成のオリジナリティーは他の追随を許さないところです。



さらに、第2部の解説文は個々の植物の生態的な特徴を重視し、図版は冬越しの写真や見分けのポイントになる拡大写真などをビジュアル的に示しています。
特に、ギシギシ類の果実、タンポポ類の総苞については、専門家といえどもこのようなわかりやすい写真を見たことはなかったのではないでしょうか。
その他にも、ハコベ類の種子や柱頭の形、タネツケバナ類の雄しべの本数、イモカタバミとムラサキカタバミの地下部、カタバミとオッタチカタバミの托葉、ヒルガオとコヒルガオの花茎、イヌホオズキとアメリカイヌホオズキの花序、ノコンギクとカントウヨメナの冠毛、ノゲシとオニノゲシの果実など、図鑑の記載文ではなかなか理解できないことが、一目瞭然となっています。



個人的なことですが、私が植物の勉強をはじめたのは、大学に入学した1975年のことです。同時に千葉県生物学会という会に入会して岩瀬先生と出会いました。タンポポにカントウタンポポとセイヨウタンポポがあることも知らなかった私が、植物や自然の見方を勉強することができたのは先生のおかげです。観察会や調査では、ちょうど校庭の雑草に掲載されているような身近な植物の興味深い生態を観察しました。
6年後の1981年、私は高校の教員になりました。この職業選択は岩瀬先生の影響が大きかったと思います。新米教員の私は、この身近な植物を教材に自然の魅力を生徒達に伝えようと奮闘しました。その6年後の1987年、「校庭の雑草」の初版が出版されました。そこには、これまでの実践のすべてがまとめられていました。この本を手にしたときのうれしさと興奮は今でも忘れられません。残念だったのはもう少し早く出版されていれば授業で大活躍していたはずだったということです。

出版から35年経った今、校庭や身近なところで見られる植物の種類は、新参の外来種の侵入などで大きく変化しています。また、APG分類体系の一般化によって大きな科の分類の変更もありました。これらの時代の流れを取り込んで、「校庭の雑草」は初版以来4回の大きな改訂を重ね、累計20万部の売り上げを誇っているとのことです。「校庭の雑草」はわくわく感をさらに増し、35年経っても新鮮な不思議な観察図鑑として大きな輝きを放っています。

2021年4月 ミュージアムパーク茨城県自然博物館 小幡和男

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