< 本の紹介 >
自然観察にかかわるおすすめの書籍を紹介します。
「すごい食生活」の「すごい写真」の数々
唐沢学長の最新刊。
身近な鳥30種について、「食」という観点から鳥たちの身体、行動、暮らしを見つめ直し、それぞれの鳥の生きざまに迫っている。
本を手に取り、まずはパラパラとページをめくってみる。
本書に掲載されている写真は計190点。ほとんどのページに写真がある。
「貯食したアズマモグラを草むらから取り出すハシブトガラス」、「スズメの死骸を水につけて千切るハシボソガラス」、「桜花で吸蜜するコゲラ」、「急降下して地面に落ちた魚を爪で引っかけるトビ」、「ミミズを土中から引き出すツグミ」、「捕えたアユを奪い合うカルガモ」、「パンを水面に落として魚をおびき寄せるコサギ」、「釣り人から雑魚をもらうアオサギのおねだり漁」、「大きなウナギを呑み込めずに苦戦するカワウ」、「大型客船に驚いて海面に飛び出たトビウオを追うカツオドリ」、等々。
これまで長年にわたり撮影、蓄積してきた膨大な数の写真の中からの選りすぐりに加えて、数多くの協力者から提供された「すごい」写真の数々に目を奪われる。
(興味深い写真のタイトルを見ただけでも、本を手に取ってみたくなったのではあるまいか?)
動物が生きるためには食物を見つけ、食べなければならない。食物を得るために感覚や運動の能力を発達させた生物が動物である。中でも鳥は「飛ぶ」という能力を手に入れ、洗練させることで生き残こり、繁栄してきた。食べれば体重が増え、重くなりすぎれば飛べなくなる。鳥に特有な体のつくりや生理、行動のいくつかは、このジレンマを解消するための工夫であったという見方にはなるほどと納得できた。
動物の食物となるのは他の生物自身、あるいは他の生物が作り出したものである。
食われまいとする生物に対しては、相手を上回る対抗策が必要となる。サギ類が編み出した様々な漁法、カワウの集団での追い込み漁(これに便乗するサギもいる)の話題は特に興味深かった。
一方で、相手の生物との間にウィン・ウィンの関係が築かれる場合もある。花粉媒介や種子散布はその好例である。そうした関係が背景にあって進化してきたと考えられる体のつくりや行動もある。蜜を吸うのに適したメジロの舌のつくりの見事さには脱帽、それこそ「舌を巻いてしまった」。
人の身近で暮らしている鳥は人が作り出した環境に適応し、人の活動をうまく利用して生きている。
新たな食物のレパートリーを増やし、しなやかに対応していく。
そんなところも面白い。
鳥の種ごとの食生活の紹介は、著者自身が実際に観察して「すごい」と思った事例を中心に4~6ページにまとめられている。
「この鳥がこんなものまで食べるんだ!」、「まさかこんな方法で」・・・
食にまつわる意外性に満ちたトピックの数々に驚嘆することしきり。
内容の面白さに加えて、平易、明快な文章で、とても読みやすい。
読み終えてしまうのが惜しいと感じつつ、ついつい引き込まれ、一気読みをしてしまった。
自然愛好家、鳥好きの人たちにはもちろんのこと、たくさんの子供たちにも一読を薦めたい一冊である。
2020年3月 自然観察大学講師 中安均